最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)157号 判決 1966年3月18日
上告人
小原政治
右訴訟代理人
吉田政之助
被上告人
山本光茂
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉田政之助の上告理由第一点について。
未登記の建物の所有者が、他人に右建物の所有権を移転する意思がないのに、右他人の承諾を得た上、右建物について右他人名義の所有権保存登記を経由したときは、実質において、右建物の所有者が、一旦自己名義の所有権保存登記を経由した後、所有権移転の意思がないのに、右他人と通謀して所有権を移転したかのような虚偽仮装の行為をし、これに基づいて虚偽仮装の所有権移転登記を経由した場合となんら異ならないから、民法九四条二項を類推適用して、右建物の所有者は、右他人が実体上右建物の所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決の認定したところによれば、上告人は、本件建物を新築して、その所有権を取得したものであるが、右新築にあたつて、原審控訴人蟹沢カヨの名義を借りて、住宅金融公庫から建築費用の融資をうけた関係上、右蟹沢カヨの了承を得た上、本件建物について右蟹沢カヨ名義の所有権保存登記を経由したものであり、被上告人は、本件建物を、右蟹沢カヨから買いうけた原審控訴人沢藤善八から、さらに買いうけたものであつて、右蟹沢カヨが無権利者であつたことを知らなかつた善意の第三者である、というのである。されば、民法九四条二項を類推適用して、上告人は、右蟹沢カヨが本件建物について所有権を取得しなかつたことをもつて、被上告人に対抗することができない、とした原判決の判断は、正当である。
論旨は、右判示と異なる見解のもとに原判決を論難するものであり、また、その引用の大審院判例は本件に適切ではなく、採用できない。
同第二点について。
原判決は、本件建物について原審控訴人蟹沢カヨ名義の虚偽の所有権保存登記が経由されたが、原審証人平野啓八の証言によつて、右蟹沢カヨも、その夫啓八から打ち明けられて、右のような真実に反する虚偽の登記が経由されることを了承していた旨の事実を認定し、右認定事実によれば、右登記は、実質上は、上告人が一旦自己名義の所有権保存登記を経由した上、所有権移転の真意がないのに、右蟹沢カヨと通謀して同人名義に虚偽の所有権移転登記を経由した場合となんら選ぶところがない旨判断しているのであつて、原判決のした右事実認定は、その挙示の証拠によつて、肯認できないことはなく、また、右認定事実のもとにおいては、原判決の判示した右判断は、正当として肯認できる。
論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないで論難するものか。または原審の裁量に属する事実の認定、証拠の取捨、判断を非難するに帰し、採用できない。
同第三点について。
すでに上告理由第一点について判示したように、原判決は、本件事案について、民法九四条二項を類推適用して、判決しているものであつて、その間に所論の禁反言の法理を採用しているものではない。
論旨は、原判決を正解しないで、原判決が適用していない禁反言の法理を適用して判決をしたことを前提として、原判決を非難するものであつて、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)